カレンダーや暦を見ていると、十方暮(じゅっぽうぐれ)という不思議な言葉を目にすることがあります。
字面からして薄暗く、何か悪いことが起きそうな雰囲気を感じるかもしれません。実際、江戸時代以前の古い暦注では、この期間は何をやってもうまくいかない凶の期間とされていました。
しかし、結論から言えば、現代において十方暮を過度に恐れる必要はありません。
この記事では、十方暮の本来の意味や、昔から言われているタブー、そしてなぜ今の時代は気にしなくて良いのかという理由について、わかりやすく解説します。
十方暮とは何か?意味と由来
十方暮とは、日の干支(えと)の組み合わせに基づく、60日に一度巡ってくる10日間の特定期間のことです。
干支は、甲・乙・丙…という十干(天のエネルギー)と、子・丑・寅…という十二支(地のエネルギー)の組み合わせで出来ています。この十方暮の期間は、天の気と地の気が反発し合う相克(そうこく)の関係が多くなるため、気が調和せず、万事がうまくいかない時期だと定義されています。
四方八方が閉ざされる
十方とは、東西南北の四方、北東などの四隅、そして天と地の合計10方向を指します。 そのすべての方向が暮れる、つまり真っ暗で出口が見えない状態になることから、十方暮という名前が付けられました。途方に暮れるの語源になったとも言われることがありますが(諸説あり)、それくらい八方塞がりなイメージを持たれています。
具体的にいつ巡ってくるのか
十方暮は、60ある干支のうち、以下の10日間を指します。
甲申(21番目)から癸巳(30番目)までの10日間
この期間は、天と地のバランスが崩れやすいとされています。
十方暮にやってはいけないと言われること
伝統的な解釈において、この期間に避けるべきとされるのは、主に新しいことや重要な決断です。気が乱れているため、スムーズに進まないと信じられてきました。
1. 結婚・入籍・結納
二人の門出を祝うイベントは、調和が大切です。天地が反発し合うこの時期に結婚すると、夫婦仲がギクシャクしやすくなると言われ、避けられる傾向にありました。
2. 引っ越し・移転
新しい土地での生活を始める際、気が悪い時期に動くと、その土地に馴染めなかったり、トラブルに見舞われたりすると考えられていました。
3. 旅行・遠出
四方八方が塞がっている時期なので、旅先での事故やトラブルに遭いやすく、予定通りに進まないと言われています。
4. 交渉・契約・相談事
お互いの意見が対立しやすく、まとまる話もまとまらなくなるとされています。喧嘩や訴訟ごとは特に凶とされました。
十方暮を気にしなくて大丈夫な3つの理由
ここまで読むと、何もできない最悪な期間のように思えるかもしれません。しかし、現代の生活スタイルや考え方において、十方暮を深刻に受け止める必要はありません。その理由は大きく3つあります。
理由1:頻度が高すぎて生活が成り立たない
十方暮は60日のサイクルの中で10日間も続きます。つまり、1年のうち約60日間、2ヶ月に1回は必ずやってきます。 これに加えて、仏滅や不成就日、天中殺、土用などの他の凶期間も合わせると、1年の半分以上は何もできない日になってしまいます。これらを全て気にしていたら、現代社会で仕事をしたり生活したりすることは不可能です。
理由2:科学的根拠のない迷信である
十方暮は、五行思想(木火土金水)の相性理論から導き出された概念です。例えば、木と金は相性が悪いといった理論上の話であり、実際にこの期間に事故が増えたり、離婚率が上がったりするという統計的なデータは存在しません。あくまで、昔の人が自然のサイクルを説明しようとした哲学の一つです。
理由3:10日間すべてが凶ではない
詳しく見ると、十方暮の10日間の中にも、天と地の相性が悪くない日(間日といいます)が含まれています。 例えば、3日目の丙戌(ひのえいぬ)などは、火が土を生み出す相生(そうしょう)の関係であり、決して悪い組み合わせではありません。十把一絡げにこの10日間はダメと決めつけるのは、占い的にも少し乱暴な解釈と言えます。
現代におけるベストな過ごし方
気にしなくて良いとは言っても、カレンダーに書いてあると少し気になるのが人情です。 そんな時は、十方暮を不運な期間と捉えるのではなく、調整期間として前向きに利用するのがおすすめです。
内部の充実に当てる
外に向かって派手に動くのではなく、自分の内側や身の回りを整えるのに適した時期と捉えましょう。 溜まっていた事務処理を片付ける 部屋の掃除や断捨離をする 読みたかった本を読む 身体のメンテナンスをする
このように、足元を固める作業には適しています。霧がかかって遠くが見えにくいなら、手元をしっかり見れば良いのです。
トラブルに対する慎重さを持つ
気が乱れやすい時期という暗示を、慎重に行動するためのリマインダーとして使いましょう。 いつもより確認作業を丁寧にする 言葉遣いに気をつける 時間に余裕を持って行動する
これらを意識するだけで、十方暮はむしろミスを防げる安全な期間に変わります。
まとめ
十方暮は、かつての人々が自然への畏敬の念を持って定めた暦の知恵ですが、現代においては絶対的な禁止事項ではありません。
やってはいけないことに縛られて不安になるよりも、今は足元を固める時期なんだなと軽く受け流すくらいが丁度よいのです。 天気予報で雨と言われたら傘を持つように、十方暮だから少し慎重にいこう、くらいのスタンスで、普段通りの生活を楽しんでください。

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